「Run For The Dream」第3話「トモキの過去!」

第2話までのあらすじ。

2008年の日本競馬界にデビューした騎手田中れいな栗東の中澤厩舎所属。そのれいなのバレットに名乗り出たカスガトモキ。その理由は明かされていない。そんな中、れいなはデビュー3勝目で初勝利を挙げる。また、同期の亀井絵里道重さゆみも同日に初勝利を挙げ、3人の女性新人騎手がいよいよ本格的に騎手としてのスタートを切ったのだった。

気になった方は「続きを読む」をどうぞ(笑)




れいなが初勝利を挙げた翌々日の火曜日早朝の中澤厩舎。


よっすぃ〜、真希さん、おはよう!…あれ、まだれいな来てないの?そろそろ時間なんだけどなぁ」
「おはよう!あれ、トモくん一緒じゃないの?(笑)」
「おはよー。ねー?てっきりトモキくんが連れて来るもんだと…(笑)」
「…よっすぃ〜も真希さんもまたいつもの冗談?(苦笑)…俺はあくまでバレットであって、れいなの保護者じゃないのっっっ!これはれいなの自己管理の問題っっっ!」
「そーは言ったってねぇ…新人騎手が自厩舎の調教遅れるわけにはいけないでしょ!」
「こりゃトモキくんの責任問題に…(笑)」
「んなコト言ったって…あ〜、来たよ」
「…す、すみません!ま、間に合いました?」
「えーと、30秒前ギリギリセーフ」
「よ、良かった…(ゼェゼェ)」
「良くないぞ、れいな!これが他厩舎だったらどーすんだ?乗り馬なくなるぞ?」
「ハイ、ごめんなさい…」
「まーまー、いーじゃないの。間に合ってんだし。…先生まだ来てないしさぁ(笑)」
「もー、真希さんは甘いんだから…それに中澤先生はいつものコトじゃん…(苦笑)」
「さぁ〜、それより調教、調教!ホラ、ごっちんもれいなも行くぞぉ!」
「おー」
「ハ、ハイ…じゃ、トモキ行ってくるけん」
「ん、しっかりな」


トレセンの朝は早い。中央競馬の場合、通常はレースは土日に行なわれ、月曜日は全休日とされ調教は休み、火曜日〜金曜日にかけて早朝に調教が行なわれる。またレースがない馬の調教は土日に行なわれることもある。レース当週の最終調整の調教は「最終追い」と呼ばれ、水曜日か木曜日に行なわれることが多く、テレビの調教VTR等に使われる映像もこの「最終追い」のものである。その役割は大きい。
また、一般に調教は厩舎の調教助手が行なうことが多いが、調教師自身や騎手、見習い騎手が乗ることもある。フリーの騎手の場合はお手馬や当週の乗り馬、期待の新馬の追い切りに乗るくらいであるが、厩舎所属の騎手の場合は自厩舎の馬の調教をほぼ必ずつけ、さらに若手騎手の場合には他厩舎の追い切りの手伝いをすることもある。


トモキと会話し“よっすぃ〜”と呼ばれていた吉澤ひとみ、“真希さん”と呼ばれていた後藤真希の2人は中澤厩舎の調教助手である(ちなみにこの3人は同い年であるが、なぜかトモキは後藤のことを“真希さん”とさん付けで呼んでいる。そのエピソードについては今後の話の中で語られるかも?)。


「…あ、中澤先生おはようございます」
「おはよー…う゛ぅ…」
「せんせー…昨日も飲んだんですか?(笑)」
「いやぁー…ハハハ…まー、気にせんといてや…」
(これでいて、ここの厩舎の成績がイイんだもんなぁ…)
「ん?カスガ、何か言うたか?」
「い、いや別に…(汗)」


栗東・ウッドコース〜
「え〜っと、じゃあ私とごっちんが2秒先行、で、れいなが外から直線一杯に追って最後は併入…と」
「OK!」
「わかりました!」
調教コースはウッド・坂路・ダート・芝とあるが、基本的には前2つが多用される。また調教の種類にも様々なものがあるが、ここでは詳しい説明は省略しておく。尚、セリフ内の併入とは馬体を併せてタイム計測地点に入ることである。


一方、中澤裕子とトモキはその調教の様子を眺めていた。
「え〜と…あの3頭併せやな。指示通り乗って来んと困るけどなー」
「ですねー…(!)」
「…よし、こんなもんやろ」
(………)


「ん〜…少し全体的なタイムが早かったケド、まぁ許容範囲内だね」
「そだね」
「お疲れ様です!(全体的なタイムが早かったのは、れいなの馬が少し掛かって抑えられんかった所があったからっちゃね…吉澤さんと後藤さんは気付いてないみたいっちゃけど…)」
「あ〜、私はもう1頭調教あるんだよね。行って来るわー」(タッタッタッ…)
「おー、よろしくね〜」
「…あ、トモキが来たっちゃね」
「ん、よっすぃ〜もれいなもお疲れさん…あれ、真希さんは?」
「あぁ、今日はもう1頭調教つける馬がいて、ごっちんの担当馬だからもう行ったよ」
「そっか。で、さっきの調教だけど…れいな、4ハロン〜3ハロンの所で抑えきれてなかったろ?」
「え?そーだったの?」
「…き、気付いちょった?」
「やっぱりなー…横にいた先生は気付いてなかったみたいだけど、あそこでハミをガッチリ噛んでガーッと行きたがってたぞ」
「あ、それで全体タイムが少し早かったのかぁ…」
「最後も何とか併入はしたけど、終いはバタバタに近かったな(笑)」
「あー…ハハハ…」
「まぁ、あの馬は気性的にそーいう所あるから仕方ないけど、あんまクセ付けないようにな。レースであーなったら勝てないし…逆に調教であーいう部分を直すコトだって出来るんだからな」
「はーい…」
「んじゃ俺、真希さんの馬の調教見てくるわ!」(タッタッタッ…)
「ん〜、細かい所まで見てるね〜トモくんは…さすが元ジョッキーだぁね」
「(!)…吉澤さん!トモキってどんなジョッキーだったんですか?」
「あれ?れいなはトモくんからそーいう話聞かないの?後、競馬学校時代にテレビとかで観てなかった?」
「なかなか聞き辛ろーて…競馬学校時代はユタカさんとかアンカツさんばっか見とったし…」
「…まぁ、本人には聞き辛いよね。私の知ってる限りだけど…カスガトモキ。2004年に騎手デビュー。この年に開業したウチの先生(中澤厩舎)の所に所属で、通算111勝。その内G1が朝日杯FSの1勝。2年目に63勝して関西リーディング7位。この111勝は3年目の4月までに挙げてるからなかなかだよね」
「へーっ」
「順調に勝ち星を重ねてたんだけど、3年目、2006年の4月に…何があったかくらいは知ってるよね?」
「ハイ。落馬…ですよね?」
「そう、調教中の落馬によるケガが元で復帰できずにその年の本人の誕生日に引退発表があったんだよね。その後、一時期消息を絶ってたんだけど、去年になって突如、飯田さん(飯田圭織。現調教師)のバレットとして競馬界に復帰したんだよね」
「なるほどぉ…れいなはバレットになってたことも知らんかったけん、本当に驚いたと」
「バレットになった理由は表向きには語らずじまいだし、マスコミにも『あくまで裏方だから』って、バレットになってからはほとんど取材も受けてないみたいだし。仲イイ人とは話ぐらいはするみたいだけど」
「そうですよね、れいなもトモキが取材受けてる所は見たことないです。れいなには『マスコミの取材には積極的に協力しろよ。れいな自身のアピールにもなるんだから』って言っちょったけど」
「そーなんだ。その辺は私も知らないケド…後は知っての通り、飯田さんが調教師に転身した所で、れいなのバレットになったってワケ」



(ん〜…そこがわからんっちゃ。なんで、れいななんかのバレットになっとーと?競馬学校で初めて会った時には「将来性を見込んで」とか言っちょったけど…)
「そんな所かな。とにかく結構将来有望な騎手だったことは確か。多くの競馬関係者がその腕を認めてたしね」
「なるほど…ありがとうございました!」
「いーや、全然!(でも…この娘は幸せ者だねぇ〜)」
「え?何か言いました?」
「(おっと…)ううん。ま、これからもトモくんの言う事聞いとけば間違いはナイと思うよ。…口はあんまり良くないケドさ(笑)」
「いやぁー、れいなも口は悪い方なんで…」
「…確かにそだね(笑)」
「って、よしざわさぁーん!ヒドくないですか?そんなにすんなり認めんでも…」
「はいはい(笑)…さ、そろそろ厩舎に戻ろうか」
「はいっ!」


そんなトモキの過去を聞いて奮起したのか、れいなは前の週に引き続き、この週も1勝を挙げたのだった。
そして、4月。開催替わりを迎えるのであった。




Coming Soon!!!




第3話の後書きはこちら〜